skeb:20 地獄変

芥川龍之介『地獄変』のイメージでモノクロイラストのご依頼をいただきました。

あまりSNSで申し上げた記憶はないのですが──私はすぐあちこちにぼやくのでもしかしたら言ったかもしれませんが──もうずっと内々で、「炎の描き方がわからない」と駄々を捏ねておりまして、なにしろ漫画でけっこう炎を描く機会が多いのですが釈然としない結果ばかりで頭を抱えていたので、このご依頼をいただいたことに強いご縁を感じております。描けない自覚があったので、執着してきました。ご満足いただけるか分かりませんが、ここでひとつ、今現在の自分なりの解釈が残せたらと思っております。貴重な機会をいただきありがとうございます。やってやりますよ!

ご指定の映像作品の他に、朗読劇を拝聴した上で、最後に本案件にかかる前に青空文庫を拝読し、内容を把握し直しました。

もしかしたら通しでちゃんと宝塚歌劇を拝見するのは今回が初めてだったような気がしております。
前から観てみたかったのでちょうど良かったです、ありがとうございました。多分初めてのはず……。

『地獄変』の箇所、拝見しました。

燃え盛る火焔を描く気満々だったのですが、上の方で息巻いてあんなことを申してしまったのですが
原作を経て歌劇を拝見した後だと、この凄まじさは火炎を直接描写して乗せるよりもその後のシーンを使った方が効果的なのではないかという気もしてきました。(えぇ……)

あと、原作の朗読を拝聴していた時は主人公の良秀と炎に焦点を当てるつもりだったのですが、
歌劇を拝見したことで作者の芥川龍之介を入れたいと思うようになりました。
芥川先生が自ら作った地獄を追体験しているようなイメージです。

良秀は最後に残ったわずかな燃えさしまで目に焼き付けようとしています。

先生こっち向いた。

最初は狩衣を着せていたのですが、たぶん最初は着ていたと思うのですが
業火を見つめる最中に脱ぐか脱げ落ちているかしてそうだなと思いました。

皮下脂肪が痩せて最低限の筋肉が見えているという感じにしたいのですが
これだとまだちょっと筋肉があるように見えてしまいますね……。

ここまで描いてから「牛車の車輪はこんなに小さくないのでは」と気づいてしまいました。
葵祭とかで人が大勢寄り添っていたいたのはこんなもんじゃなかったし7年前に東京国際文化フォーラムで見たものもこんなもんだったっけ……となり
本当に今更なんですけどそもそも作中の「檳榔毛の車」ってなんだ……と調べましたところこちらの資料が。

 平安貴族のクルマにもランクがあった 牛車愛ほとばしる学者が語る「光る君へ」の評価と願望

葵祭の御所車ほど大きくはないにしろ、あきらか私のイラストでは小さすぎるので泣く泣く調整に……なんで事前に確認しなかった……ばかばか。

よく考えなくても構造上、車軸の高さがだいたい牛さんの肩の高さと同じくらいになるということを考えてもこの車輪は小さすぎるんですよね……ばかばか。

しかしこの木の塊が地獄の業火で燃え盛るのはわかるのですが人の手でここまで燃やすとなると相当な火力が……

あっ

ちょっと待って

『地獄変』の元となった宇治拾遺物語の『絵仏師良秀家の焼くるを見て悦ぶ事』の良秀は、自分の家が女房子供ごと燃えているのを見て「今見れば、かうこそ燃えけれと、心得つるなり※1」と炎の描き方がわかったことを喜んでいましたが
『地獄変』の牛車が燃やされたのは良秀が「その車の中には、一人のあでやかな上﨟(じょうろう、身分の高い女官)が、猛火の中に黒髪を乱しながら、悶え苦しんでゐるのでございまする。(中略)あゝ、それが、その牛車の中の上﨟が、どうしても私には描けませぬ。※2」と、つまりは生きたまま焼かれている上﨟が描けないことを訴えたからであって炎を眺めているのは違うのでは……?
『地獄変』の良秀は「「よぢり不動」の火焔を描きましたのも、実はあの火事に遇つたからでございまする。」と言っているので、炎が描けなかった弱点はもう克服しているのでは……?

あっ

あっ

すみません、前提から全然間違っていました。

えぇ……なんで気づかなかった……いや完成前で良かったけど!

たぶんなんですけど宇治拾遺物語のほうのエピソードが学生時代に教わって以来ずっと焼きついてしまって、地獄変を読んでいるようで読んでいなかった可能性がある。思い込みで記憶を曲げてしまうようなことは私はときどきあるので今回それをやらかしたかもしれません。

さてどうやって軌道修正しよう……。

完全にこの構図で行くつもりになっていたのでショックが大きい……うう……。
でも同じパターンで娘の亡骸を見ているのは違うなと感じる。

ちょっと散歩に出るか……。

場合によっては納品の順番を変えさせていただく可能性もある……。

わぁ おそら きれい 

※1参考:巻三 (38)絵仏師良秀、家の焼を見てよろこぶこと 宇治拾遺物語 現代訳語ブログ
※2出典:『地獄変』 青空文庫

(一旦作業停止、すぐに戻ります)

戻りました。
愛娘の燃える様子を一心に写しとる姿に変更しました。
結果的に、こちらの方が良い絵になったと思っております。
背後の3本線には炎を描き入れていきます。
風景ではなく、イメージの表現になります。
娘の姿を直接描写するのはちょっと今回は違うかな……という気がしていましたが
もう少し悩みたいです。

まだ続きます。

一服したら背後の炎に取り掛かります。

炎の下絵を入れました。

やっぱり炎の描き方わからん……炎の末端に行けば行くほど動きが激しくなるイメージはある……。

炎が描けているでしょうか……。(最初の自信はどうした)

完成いたしました。変なタイミングで昨日一度お届けしてしまったのですが、よろしければぜひこちらの方をお納めいただけますと幸いです。この度はとてもチャレンジしがいのあるご依頼をありがとうございました。

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